小嶋いず美さん(欧菓子研究家)とクリームティー

シニアティーインストラクターの資格を持つ、欧菓子研究家の小嶋いず美さんに、クリームティーの魅力についておうかがいしました。

欧菓子研究家 小嶋いず美さんに聞くクリームティーの魅力

洋菓子研究家 上田悦子さんに聞く紅茶とお菓子伝統的なクリーム作りを行っているデボン州・ウエストンファームのウイリアム・ウエストン氏(写真左)と小嶋氏

欧菓子研究家として教室を開き、雑誌や書籍でも活躍中の小嶋いず美さん。最近ではティータイムトータルコーディネーターとして、メディアに登場する機会も増えています。

そんな小嶋さんが今、もっとも関心を寄せているティースタイルが、『クリームティー』。スコーンにクロテッドクリーム(脂肪分55~60%程度の、牛乳を素材とするクリーム)と苺ジャムを添えていただくものです。

2009年夏には、クリームティー発祥の地ともいわれる、南西イングランドを訪問した小嶋さんに、クリームティーの魅力についてうかがいました。

本場のクリームティーを求めて

酪農牧場で草を食むジャージー牛酪農牧場で草を食むジャージー牛
クリームの表面にできる「クラスト」を多量にとるため、平たい器で作るのが特色だクリームの表面にできる「クラスト」を多量にとるため、平たい器で作るのが特色だ

小嶋さんが初めて、伝統的製法によるできたてのクロテッドクリームを味わったのは、2002年冬。場所は紅茶協会の英国研修旅行で訪ねた、デボン州のクリーム農場。

「どこで食べたものよりも美味だった」という、そのクリームティーの味を再現したいと研究を積んだ結果、スコーンは食材(特に小麦粉)を選ぶことによって、本場に近い味わいを出せるようになった。しかし、クロテッドクリームについては、日本ではまだ流通量が少ないこともあり、わからないことも多い。そこで今回、クリームのふるさと・南西イングランドのサマセット・デボン・コーンウォルの3州を探訪した。

ヒントを求めて訪ねたのは、サマセット州の『アイビーファーム』とデボン州の『ウエストンファーム』という2軒の酪農牧場、それにコーンウォル州の大手メーカー『ロダス』。ここでは、クロテッドクリーム作りの工程などを取材した。

「できたてのクリームは特に、ミルク本来の甘さが引き立っていて、バターのような脂肪分の濃厚さはなく、生クリームの重さもない。さっぱりとしながらコクのある味わいでした。」

主原料はいずれも同じ、脂肪分が高いジャージー牛やガンジー牛などの加熱殺菌されていないクリーム。具体的な製法を学び、ファームによって異なる温度・時間・そのほかの加熱の条件から、微妙な味わいの差が生ずることもわかった。

大切な時間のためのクリームティー

特に印象に残ったハウスブレンドティーは、ジョージアン・ティー・ルーム(デボン州)のもの。ケニアとセイロンにローズペダルを加えており、お店のイメージにぴったりマッチしたものだった。特に印象に残ったハウスブレンドティーは、ジョージアン・ティー・ルーム(デボン州)のもの。ケニアとセイロンにローズペダルを加えており、お店のイメージにぴったりマッチしたものだった。

歴史が古いといわれるクロテッドクリームだが、スコーンにつけて食べる習慣は比較的新しい。カジュアルなティースタイルとして知られているが、現地の方たちは、このお茶の時間をとても大切にしているのだと教わった。イースターやクリスマスなど、家族や特別なお客様が集まる時期に、1~2時間ほど時間をかけてゆっくり味わうものだという。

小嶋さんは、本場ならではの習慣にも深く分け入りたいと、サマセット・デボン・コーンウォルの3州にある、英国ティーカウンシル発行のガイドに掲載されている店の中から、評価の高いティープレイスを訪ねた。その数、14件。

ティープレイスで出されるスコーンのレシピの多くは、いわゆる「ママのレシピ」。

「昔からウチはこの作り方」というレシピを脈々と受け継いでいる店が多かった。

また、スコーンに添えるジャムは、苺、あるいはラズベリージャムが一般的、まれに杏ジャムも。ただ、ブルーベリージャムにはお目にかかれなかったという。

「マーマレードをつけないの?」と尋ねたら、

「あれは朝食のトーストにつけるものだから」という答え。

ジャムとマーマレードは厳密に区別されているようだ。

気になる紅茶のリストはというと、アッサム、ダージリン、アールグレー、キームン、ラプサン、そして緑茶に、ミントやルイボス、カモミール、ベリーなどのハーブティーがメニューに並んでいたそうだ。紅茶には必ずといってよいほど、ミルクが添えられていた。味わいは、日本とは水質が異なるために、ミルクティーといえども、さっぱりとした印象。好まれて飲まれているのも、ミルクティーにマッチする茶葉が多いように感じたそうだ。

英国人の『完成された美味』

バースでは、サマセット州・デボン州と同様に、クリームを載せてからジャムをかけている(サーチーズ・アット・パンプルームにて) バースでは、サマセット州・デボン州と同様に、クリームを載せてからジャムをかけている(サーチーズ・アット・パンプルームにて)
コーンウォル州では、ジャムを塗ってから上にクリームを載せるコーニッシュスタイルが主流(マフィンズ・ティーショップにて) コーンウォル州では、ジャムを塗ってから上にクリームを載せるコーニッシュスタイルが主流(マフィンズ・ティーショップにて)

小嶋さんはティーハウスを訪ねる度に、かねてより一番気になっていたことを聞いた。

「スコーンには、クリームとジャム、どちらを先につけるもの?」

答えは、「どっちでもいい」「好きずきだよ」。

しかし、実際にはこだわりがある様子。

取材の結果は、サマセット州・デボン州ではまず全体にクリームをたっぷりと塗りつけてからジャムをかける食べ方が一般的のよう。コーンウォル州では、先にジャムを塗り、その上にこんもりとクリームを載せていた。

そうする理由は、いずれの食べ方も

「こうすると、クリームをたくさん食べられる」なのだそうだ。

「今回、本場のクリームティーを味わい尽くしてみて、クリームあってのスコーンであると同時に、スコーンあってのクリームでもあり、ジャムがその橋渡しとなって両者を共存させているとわかりました。この三位一体が成功してこそ、紅茶の美味しさが引き立つのですね」と、小嶋さん。

2週間にわたる旅の間は、毎日クリームティーをいただいた。それなのに、まったく飽きない。ミルクティーとともに口にすると、いくつでもお腹に入ってしまったのだという。

「クリームティーはイギリスにおける『完成された美味』なのだと、つくづく感じました」。